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私たちは生まれてから様々な経験を通して今に至ります。私たちの体も、先天的に決まっていて生涯変わらないゲノム情報に加えて、その生きてきた環境や生活歴など多種多様な「後天的な形質」を獲得していくことで今の状態が作られています。即ち、疾患になりやすさや重症化しやすさ、といった個体ごとの特性を明らかにするためには、その個体が産まれてからそれまで“生きてきたこと全て(Whole Life)”によって獲得される形質を正確に把握する必要があります。これら履歴情報の一部は細胞内にエピゲノム情報として刻み込まれるが、そればかりでなく組織内に特定のタンパク質の修飾や代謝物が蓄積することや、線維化などの構造変化を行うことで「非細胞的」に刻み込まれます。こういった様々なレベルでの獲得形質が、素人的な言い方では、いわゆる「体質」や「免疫力」といった、漠然としているが、確かに感覚的に存在するファジーな概念を構成していると思います。ただ、ポストパンデミックを見据えた次世代のヘルスケアを考えると、こういった体質などのエンピリカルなコンセプトを、エクスペリメンタルに、科学の対象として捉えていくことが重要であると思います。さて、この「人生を通して経験・獲得するあらゆる特性の理解」ですが、これらの「生きてきたことの、いわば刻印」の数々は、それらの時間的・空間的相互関係にも意味があり、従来の科学的手法である要素還元的にバラバラにして解析し、それらをパズルのように組み合わせて再構成する方法では十分に情報を読み取ることができません。このため、一個体が生涯(Lifespan)に亘って後天的に獲得されるすべての形質を、それらの全体性を保持したまま、かつ細胞から非細胞のあらゆるレイヤーにおいて、ノンターゲット・ノンバイアスで網羅的に計測し、それらをホリスティックに理解する新しいアプローチが肝要で、私たちはこれを、生涯に亘る全てを網羅的に解析することから、Lifeのomics、Life-omicsと呼ぶことにしました。LiCHT (Osaka University Life-omics Core with Holistic Technologies)では、Life-omics研究を確立させる研究拠点として、「ライフォミクスに関する生命科学研究」「ライフォミクスに関する技術開発」「ライフォミクスに関する人文科学的研究」を進めています。